オルタナティブなDAW

前に紹介したツバメスタジオのメインDAW Reaperに引き続き、独自路線DAWの紹介。Harrison Mixbus。

先月にバージョン2.0がリリースされたHarrison Mixbus219ドル。[わりと値段変わりやすいので削除。まあそんなもんです。2012.1.27]

ツバメスタジオのiMacには入ってたりします。バージョン1のころから、ひそかに買って入れてあります。わたくし(君島)はかなり好きですが、ときどきしか出番がないのが残念。
今日の時点で2.0.2にアップデートされてますが、1.xから比べるとかなりよくなりました。
[Windows版も出たので、とりあえず安定性を検証中。2012.1.27]

どんなソフトウェアかというと、スクリーンショットを見るのが早いです。
Harrison Mixbus2.0

EQとダイナミクスが各チャンネル、画面の表に出てます。プラグインを使わなくても、これで音を作れると。
アナログミキサーに慣れている人にはすごくアピールします。私はされました。

個人的に気に入ってるのは、
1)各チャンネルのフェーダの横にゲインリダクションメータが付いていること。
2)チャンネルゲインつまみがある(プリインサートレベルを変更できる)。
3)マスターにK-Meterがついていること(マスタリングエンジニア/デジタルプロオーディオ分野の著作のあるBob Katzさんが考案した、アナログ時代のVUメータをデジタルシステムに置き換えるシステム。録音レベルというよりも、実はモニタリングの音量のキャリブレーションに使います)
…つまり自分がいま音に対してなにをやっているかが瞬時にわかる、と。プラグインのウインドウを開かなくても。幸い、内蔵のダイナミクスとEQはかなり使えます。そう思います。
4)サブミックス用のバスに、テープサチュレーションのシミュレータがついている。なかなかよい気がします。
5)あと2,3ありますが細かいので省略。あ、Linuxにも対応してます(ベースがArdourなので)。ちゃんと動きました。

あんまり気に入ってない点。
1)ArdourっていうオープンソースのDAWベースなので、各種設定が無骨なところがある。いちど設定してしまえばほっておけばいいですけど。ほかのDAWを使ってる人は、システムの設定ごとMixbus専用のユーザアカウントを作っちゃったほうが楽かもしれないです。
2)Jackというバーチャルなパッチベイシステムを併用する必要がある。これのおかげでできることがあるんですが、もうちょっとJackさんインターフェイスが使いよくならないかと。

海外の機材好きのフォーラムGearslutzでも、なかなか話題になりました。
話題になるというか、ユーザ間で好き嫌いの温度差が埋まらず、話が収束しなかっただけかもしれません。

いいとこ取りをしたいユーザは、ProToolsとかLogicのグループアウト(バスアウト)をJackを経由してMixbusにパラって入れてミックスダウンする人が結構いるようです。音作りは既存のDAWで、バランス取りはMixbusで、という使い方。

中には、同じミックスセッションをPTとMixbusの両方で対照実験をする人まで現れ、Mixbusのミックスのほうがずっとよい!と力説したりも。

さらには、サミングの音がアナログ的な暖かい音がする!と喜んだユーザもいましたが、こちらはその後客観的な対照実験で否定されました。PTでもLOGICでもNUENDOでも、単純なサミングでは同一だったと。見た目で期待しすぎましたね。

そういう主観的な話はさておき、このインターフェイスのおかげでワークフローが変わることのほうがMixbusを使う理由になるのではないかと。
たとえば、いちど、Mixbusの内蔵のダイナミクスとEQだけでバランスを作って、全チャンネルのゲインリダクションメータだけをずらっと並べてみると、なんつうか自分の音作りの傾向がよくわかるというか、スキル向上の足場になるかもというか(K-meterはその点で素晴らしいツールと思います)。
パラメータが奥に隠れている普通のDAWよりも、経験の蓄積の効率がいいんじゃないか、そんな気がします。

PTでミックスするよりも、Mixbusでいい結果を出せたと思った人が少なからずいるのは、そういう意味では大いにありえると思います。音をコントロールしている自分をコントロールする方法が変わる、とも言えるんじゃなかろか。

ちなみにHarrisonは、かのMJのThrillerとかハリウッド映画とかで使われている、歴史の長いハイエンドな卓メーカーです。EQとかダイナミクス(コンプ、リミッター、レベラーの3種類)あたりは、いちおうモデリングしてあるようです。

バージョン1を出したときに、あまりにも自信満々なキャッチコピーを出したためにGearslutzのユーザから叩かれてました。True Analog Mixing (TM)って、そりゃ突っ込まれるだろ。でも、ちゃんとメーカの責任者が出てきて立場を明確にしてたのはえらいなあと思いました。バージョン2でもキャッチコピーを変えてないのはどうかと思いますが。

というわけで、最後はコマーシャル。
Harrison Mixbusのセッションデータの持込&ミックスができるのは、ツバメスタジオだけです。(そりゃあね)
使い方がわからないユーザさんからのお問い合わせも歓迎です。

※すでに長い記事ですが補足。
アナログ卓を使うときのオーソドックスな方法論ですが、チャンネルゲインつまみを「きれいに」設定することをお勧めします。
きれいとはなんぞやというと、普通のバンド編成なら…、
バスドラム、スネア、メインボーカルは、各チャンネルのレベルメータが大体-6dB~0dB~+3dBの間で振れて、ほかの楽器はすべて-12~-6dBの間くらいで振れるように、チャンネルゲインつまみを設定しておくと。あとはお好みしだいですが、ベースはこのふたつのレベル差の中間くらいでもいいかもしれません。

つまり、楽曲のメインになる要素は、チャンネルに入った時点でのレベルを、ほかより高くしておくわけです。6dBとか9dBとか12dBとか、差をつけると。

この状態から、初めてコンプとかEQをかませていきます。コンプのオートメイクアップゲインは使わないことをお勧めします。コンプがかかったら、音量が下がるように。引き算的に使うと。あとはフェーダーでバランスをとれば。

そうしたら、たぶんマスターでちょうどよくなります。K-Meterも役に立ちます。(マスターに極端なマキシマイザー的なプラグインを入れてない状態の話)
マスタリングエンジニアさんにとって仕事がやりやすいオーソドックスなマスターができる…かもしれないというか期待されるというかなんというか。

こういうすっぴんの初期状態をいつでも同じ条件にしてからミックスをはじめれば、経験の蓄積がいっそう効率的になるんじゃないでしょうか。(君島)