EXTRUDERS – 8 Queens

EXTRUDERSのアルバム「8 Queens」の録音、ミックス、マスタリングを君島が担当しました。

前作「colors」のアートワークは大槻素子さんの油絵でした。
 
今作は、森本将平くんのドローイングです。
 
 
前作は2013年の4月発売でしたけども、今作「8 Queens」は2015年1月末発売でした。1年半以上ぶりの新作かというとそういうわけではなくて、2014年の1月から、「8 Queens」所収の曲と、それぞれに森本君の絵を添えて、毎月1曲ずつペースとかでネットで公開してました。
毎回、森本くんに絵を描いてもらっていたという贅沢振りで、フリーダウンロードだったり、MVだったり、スタジオライブ映像だったりと、1年ちかくかけてお楽しみいただく趣向でした。そうして公開した順番そのまんまですね、「8 Queens」の曲順は。

その名残の動画はここに。
 
YouTubeのEXTRUDERSチャンネル

バンドの直販サイトはこちらです
 
 
録音セッションは、2013年の12月に前半4曲、2014年3月に後半4曲を録音しました。
つまり、2013年4月に前のアルバム「colors」をリリースして、ツアーしてツアーしてツアーして、息もつかずに「8 Queens」の録音に入ったような記憶があります。
 
 
録音した場所は、エクストルーダーズは神奈川県の南端に築百年くらいの石蔵を借りてスタジオにしてまして、そこでの録音です。さながら彼らの創作の基地ですね。
 
エクストルーダーズの音楽は1曲ずつの詩の内容であったりイメージを変えて行きたいので、「colors」と同様に今回も、1曲ずつ録音を終わらせる方式をとりました。
つまりあるひとつの曲のリズムトラックを録音したらセッティングをばらして、その曲のギターや打楽器などのオーバーダビングをして、ボーカルも録って、ラフミックスを聞いて過不足ないかを判断して、(そんで一服したりマグロを食べたりしたら)、次の曲のリズムトラック録音にかかる、という方式です。流れ作業にしないという。
まあ、このあたりは彼らとの共同作業で規定路線となりまして、ライブPAもともにしていますので、大変こなれた感じで進んでいきますわね。
 
 
なんだか非効率で時間がかかるように思われそうですが、メンバーみな、ひとつの曲で表したいものが何かを明確に知っているので、このやり方は早いです。早さ、速さでもいいんですが、寿司のネタをいつまでも手のひらの上でもたもたやって握ってたらまずいですよね、そういう意味の早さですかねえ。
演奏者の楽器の鳴らし方響かせ方、録音者のマイクの立て方、ちょっと録ってちょっと聴いて、とすこし試行錯誤をしながらみなで会話していくと、曲の方向性がはっきりしてくる感じがあります。メンバーも演奏を変えてくることもありますし、マイキングを演奏に寄せて変えることもあります。
 
 
さて、録音メモということで、何を書いたものかなと思ったのですが、エクストルーダーズの私がかかわってる録音で、「アンビエンスの感じ」について特徴を感じられる方が多いようでございます。

ということで、いわゆるルームマイクの話をしますね。
マイクとマイクプリアンプという機材っぺえ話、ほんとはしたかないんですけど今年はおそれずに邁進していこうと思います。
 
 
では、さかのぼりまして、、、前作から。
 

かわええ、、


「colors」では、もやっとした雰囲気を録ろうといろいろ工夫しました。
特徴的なルームマイクのプリアンプには、デンマーク製の映画用の小型ミキサーを大きく使っています。

整然とした臓腑

と言い出してすぐに周辺的な話にそらしますが、デンマークの映画というのは1890年代から撮られていて、第一次大戦前がデンマークの映画の黄金期とされてるくらい歴史が古いらしい。

で、本記事のために調べてたりしたら面白い一文に出くわしたのでウイキペディアですけども引用。「Historically, Danish films have been noted for their realism, religious and moral themes, sexual frankness and technical innovation.」
デンマークの映画に特徴的にみてとられるのは、リアリズム、宗教的・人道的なテーマ、包み隠さない性、技術の先取である。歴史的に。んだそうです。ほいほい。ナチスドイツ統治時代を経験した国々は、ノンフィクションやリアリズムが発達するというか、日常の営みをみる視点のなかに寡黙な理性と毅然とした抵抗をこめることができるようになってる気がします。ああ、印象だけですのでご放念ください。


チャンネルモジュールカード


そして機材っぺえ観点から見ると、近年はやりのゲルマニウムトランジスターを増幅素子に用いた、トランスフォーマーイン&アウトのミキサーです。この時代は、半導体といえばゲルマニウム、トランジスター万歳、小型化バンザイの時代と思いますので、携行性が要件となる映像現場で先取されたもようです。
トランスはベイヤーかな、トランスメーカーとしてはそんなに好みのメーカーではないですが、いや、これはいいです。ベイヤーじゃないのかも。
VUメーターは、Altecの有名な機材のものと同じ形ですね。
ステレオミキサーになっておりまして、1、2チャンネルは左、4、5チャンネルは右、3、6チャンネルはパンポットがついており、6チャンネルのみトランスのないライン受けです。このミキサーだけでライブ録音・ミックスしたいな。

まあしかし、シンプルな構造、おそろしく丁寧な配線と実装、まったく惚れ惚れしますね、ほおづえついて1時間ばかり眺めていたいですね。(だから機材っぺえ話はしたくないんだ)
 
んで、音はというと、まあ、独特の素直なノイズフロアの上に、やわらかいにじんだような色彩感のあるマイクプリアンプとでも言っておきましょうか。だから機材の話はしたくないんですよね。この際だから、詩情豊かなサウンド、とくらい言ってしまえばいいのか。



Coles 4038、重い

そしてこれにつないだマイクはですね、Coles 4038という、私が愛してやまないリボンマイクを2本、ブルームラインコンフィギュレーションというステレオマイキングをしてバンドがせーので演奏しているアンサンブル全体を録りました。ルームマイク、ともいえますけど、ルームマイクって通念上の話、部屋の端っことかになんとなく立てておくやつなイメージが多いですかね。僕の場合は、そのアンサンブルを一番バランスよい場所で聞くことのできる仮想的な一対の耳、という位置づけですね。みながその特等席の耳に向かって演奏している、というような。

ブルームラインコンフィグの図解(おもちゃのマイクを使って)


ブルームラインコンフィグというのは、8の字指向性(双指向)のマイクを2本、直角に積むようなやり方です。

右のおもちゃマイクの写真、えーと、双指向性にみたてますと、こういう感じです。マイクに見えないですかね、これ。

まあさておき、僕はこのステレオマイキングテクニックが大好きでして、Zの「絶塔」のドラムセット全体もこのやり方で録りましたもんですね。ドラマーの右斜め前方、タムとフロアタムから等距離くらいの位置、目線の高さくらいに置いたですね、タムとフロアタムの聞こえ方がすばらしくてですね、云々。

 

さて、やっと新作「8 Queens」の話。こちらもロングストーリーです。
 
マイクプリアンプには、私が南アフリカから輸入したイギリスのRaindirkというメーカーの70年代末か80年ごろのミキサーから引き抜いたマイクプリアンプ回路、をラッキングしたものです。
実際にこれを作ったデザイナーのCyril Jonesさんというおじいちゃんには、資料を送ってもらったりリストアのためのパーツを作ってもらったりと大変なご厄介をかけています(なんと現在進行形)。
 
このRaindirkというメーカー、調べていくとDick Swettenham、Helios、Olympic Studios、はてはCrass、John LoderのSouthern Studiosとかいったキラ星のごとき名前がヒットします。

RaindirkのプリアンプPCBなど、手前の緑がインダクタ

ロータリースイッチ仕様で、トランスはSowterですね、大好きです。Ichionの荒石くんがマイクプリアンプ回路を実体からたどって回路図を起こしてくれたんですが、珍しいことにコイル(インダクタ)を使ってて何じゃこれっていってたんですが、どうやら、ゲインを高くするにしたがって低音をゆるやかにロールオフして(減らして)いくような、とても独特なつくりになっているっぽいです。
 
と挙動を理解して、すごく使いやすくなりました。というのも、マイクプリアンプの前段に-20dBのパッドをつけたんですが、これで録音時での自然な音作りができるようになりました。同じ出力を得るにも、プリアンプのゲインが2種類あり、ロールオフのカーブも2種類ある、これは僕はとてもクリエイティブですばらしいと思います。録音~ミックスのプロセス全体の話なのでYMMVです。
 

Sankenマイク、とサイズ比較のAKG C451E


もはや話を引き伸ばすのが楽しくなってきてますが、まあ、そういうマイクプリアンプに対して、使ったルームマイクは、Sankenの試作品マルチチャンネルコンデンサマイクです。
中古というかジャンクで手に入れた時点では調子悪かったので製造者たるサンケンマイクロホン様に修理に出しました。
分析してもらったらえらく面白いマイクでした。どうも某公共放送の発注でなんかの実験するために作らされたものっぽいですね、と営業さんがおっしゃってました。なんか回転盤?の上にマイクを載せて?3つのカプセルの差を測定する?とか。何をしたいのかさっぱりわかりません。
(ちなみに、数学上は、無指向=直交する8の字ふたつ、となるので、モノラルで8の字ふたつの出力を足して、無指向を逆相にして減算すれば、無音になる理屈です。水平面ではそうですが、垂直面では高さの違いがあるのでそうはならない、だから、それをみる、のか?)

さておき、このマイク、Sankenらしい梨地のステンレスの筒の中に、カプセルが3つ、上下に積みあがる形で入ってます。(ステレオじゃなくて3チャンネルマイク)
一番上から無指向、8の字、8の字。下のふたつの8の字は水平面で直交している。つまり、下の2つのカプセルだけ使えば、上述の、わたくしの大好きなブルームラインコンフィグなんですね! それを聞いた当時、うおお、と声が出ました。
ということで、「8 Queens」でもブルームラインコンフィグを使ってるわけです。
「colors」ではバンドアンサンブルの中央に置きがちでしたが、今作ではどちらかというと、ルームマイクはギターのオーバーダビングに活躍させた印象があります。
ギターの岡田さんが得意とする、あの、空間の中を音の粒子で噴霧させてくような感じ、あれを録りたかったんですね、、。Sankenのマイクの特徴と感じてますが、14kHzとかいわゆる超高域レンジが個性的に録れます。
 
ちなみに8の字指向=双指向といっても、原理上、コンデンサマイクよりもリボンマイクの双指向性のほうがだんぜんきれいです。きれいというのは理論値に近いという意味です。
 
(君島)